停電など、いざという時にあらゆる機器へ電力をバックアップする役割を担う据置鉛蓄電池。しかしこれらの蓄電池も、いわば消耗品。定期的な点検や交換を行わないと、いざという時に稼働できない場合があるのです。
今回は据置鉛蓄電池の保守や点検方法、交換時期の目安をご紹介します。
据置鉛蓄電池とは、屋外及び建物の中の受変電設備や消防設備などの非常電源や予備電源用として、屋内・屋外キュービクル、電気室や蓄電池室等に設置される鉛蓄電池のことを指します。
据置鉛蓄電池の主な用途としては、建物内外の受変電設備操作用、非常照明点灯用、非常用発電機始動用などがあります。(その他:UPS、電話交換機、消火設備、機器操作用など)また近年では、再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電に併設され、充放電を繰り返す用途もあります。
主な設置場所は、建物内にある電気室や蓄電池室の他、屋上など屋外に設置されることもあります。なお、蓄電池は通常、キュービクルという鉄製の箱に収納されています。
据置鉛蓄電池には、大きく分けて「ベント式」と「制御弁式」の2つの種類があります。
これらの大きな違いは、蓄電池の中に入っている電解液(希硫酸)の補充の必要有無です。
ベント式据置鉛蓄電池は、蓄電池の中に液体の電解液(希硫酸)が入っています。
この電解液中の水分は時間とともに徐々に気化して量が減っていくため、様子を見ながら定期的に精製水を補充していく必要があります。
電槽(蓄電池の容器)の色が透明で、電解液の減り具合を見ることが出来るようになっています。電槽には、蓄電池に適切な電解液量が入っているか確認するための目印(上限、下限)が入っており、この目印の中間を超える電解液が入っていれば、適切な量と言えます。
触媒栓とは、ベント式据置蓄電池に添付される部品の一つです。
経年使用で電解液中の水分が電気分解され、酸素・水素ガスが発生します。触媒栓はそれを触媒作用によって再結合させ水に戻し、再び蓄電池内に還流する役割を持ちます。これにより電解液の減るスピードが緩やかになり、精製水の補充頻度を少なくすることが出来ます。なお、触媒栓も定期的な交換が必要であり、使用目安は5年とされています。
制御弁式据置鉛蓄電池はふたの排気口部に制御弁が設けられた密閉構造となっており、精製水の補充の必要がない、メンテナンスが容易な蓄電池です。
電解液はガラス繊維からなる不織布にしみこませてあり、構造はベント式とは異なります。電槽(蓄電池の容器)は不透明のため中の構造は見えません。
また特徴として、ベント式と比較して自己放電が極めて少ないため、均等充電が不要です。
※均等充電とは : 蓄電池の品質を維持するために行う充電方式のひとつ。長期間使用することで発生するセル電圧のばらつきを補正し、均一化するために行う充電のこと。
保守作業としては、年に1~2回、接続部分に緩みがないか確認を行う必要があります。
鉛蓄電池に内蔵されている極板には大きく2種類あり、クラッド式とペースト式があります。それぞれの放電特性に特徴を持ち、蓄電池の用途によって使い分けられています。
鉛合金で作られたすだれ状の心金にガラス繊維を編組したチューブを差込み、
心金とチューブの空間に活物質となる鉛粉を充填した構造になっています。
クラッド式は寿命が長いのが特長で、振動や衝撃にも耐性があります。建築現場の機器等のバックアップに使用される鉛蓄電池に採用されています。また、据置ではないですが、フォークリフトなどの現場作業用の蓄電池へも用いられています。
ペースト式は、鉛合金で格子を作り、格子の空間に活物質となるペースト(鉛粉を水と希硫酸で練り合わせたもの)を充填した構造になっています。正極板、負極板がそれぞれペースト式極板で作られ、薄型で大電流放電に適した特長から、主に非常電源やUPS(無停電電源装置)などに使用される蓄電池として、幅広い用途に採用されています。
蓄電池は消耗品であり、定期的な点検や交換は欠かせません。
これを怠ることにより、非常時に稼働ができないケースや、最悪の場合は火災の原因になることもあります。
実際に、主な据置鉛蓄電池モデル別の寿命は下記のようになります。
ではどのようにして、蓄電池は劣化していくのでしょうか。
使用条件の違い(停電等による放電回数が多い、周囲温度が高い等)や保守の良否等により異なりますが、通常の経年劣化の主要因は正極の腐食・伸びによるものです。
特に制御弁式据置鉛蓄電池は、経年使用により正極板の格子が除々に腐食され、格子が伸びるにつれて活物質との密着性が低下します。
結果、内部抵抗が増大して容量低下が生じ、ついには必要な容量が取り出せなくなり「寿命」となります。
鉛蓄電池の寿命は、設置されている場所の温度と大きく関係しています。
蓄電池の使用環境温度が高いと、極板格子の腐食が促進されるため、寿命は短くなります。
この温度と寿命の関係は、Δt=10℃上昇で寿命は約半分になります。
これは化学変化の進行速度がアレニウス則(10℃2倍則)に従うためです。
据置鉛蓄電池の適切な使用環境温度は、屋内・屋外問わず25℃とされています。
据置鉛蓄電池の使用において、実際に発生したトラブル事例をいくつかご紹介します。
- 停電が1分間継続した後に復旧(復電)。但し、操作用直流電源装置(非常電源)の蓄電池が寿命を迎えており、遮断機の再投入が不可であった。当該事業所のみ、停電状態が1時間半の間、継続してしまった。
- 非常用照明の点灯点検時に、老朽化していた蓄電池が発熱・発煙した。
- 停電発生時に蓄電池から放電したが、老朽化していた為にスパークが発生し、蓄電池内部の水素に引火して破裂した。また、硫酸が飛散した。
保守点検は、年に1~2回の頻度で実施することをお勧めします。
①(ベント式の場合)電解液量の減りが異常に早い。
②蓄電池が異常な熱を持っており、蓄電池温度が高い。
③蓄電池の表面や端子接続部分に汚れや析出物が溜まっている。
④電槽に亀裂がある。
⑤(ベント式の場合)電解液の中に汚れのようなものが浮いている。
⑥キュービクルに取り付けてある電子表示盤に、「交換推奨」の警告が出ている。
⑦(制御弁式の場合)内部抵抗値が注意レベルを超えている。劣化レベルの場合は即時の交換を推奨します。
⑧動充電電圧にばらつきが発生し始めている。
蓄電池の交換時期が迫っているかどうかは、まず蓄電池が収納されているキュービクルの扉内側に張り付けてある製造メーカーの記録ラベルを確認することで暫定的な判断が可能です。ラベルには、メーカー名・蓄電池モデル・設置時期・次回交換時期などが記載してあります。
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